(法律)普通抵当権と根抵当権の使い分け~被担保債権の不特定性とは~

第1 問題の所在

普通抵当権の場合、「抵当権者は、利息その他の定期金を請求する権利を有するときは、その満期となった最後の二年分についてのみ、その抵当権を行使することができる。」(民法第375条第1項)とされており、被担保債権とできる利息等の範囲が二年分に限定されている。一方で、根抵当権の場合、極度額の範囲内であれば、このような限定はない

そのため、ある特定の債権を担保するために、普通抵当権ではなく、根抵当権を設定するという発想がでてくる。言うならば、上記民法第375条第1項を潜脱するために、根抵当権を用いることができないか、ということである。
私もクライアントから、(ある特定の債権を担保するために)普通抵当権ではなく、根抵当権を設定することでは駄目なのか?という質問を受けることがよくある。まぁ、クライアントは上記普通抵当権の被担保債権の範囲の制限を知って、というよりかは、根抵当権は普通抵当権よりも強い、という抽象的なイメージを持っているから聞いてくることが多いが。

この質問に対して、保守的・形式的な回答をするのであれば、駄目、である。

ならならば、特定の債権のために、根抵当権を設定した場合にはどうなるかという論点について、裁判例(盛岡地判平成元年9月28日)は、民法第375条第1項を潜脱するために特定の債権の担保として根抵当権を設定した事案において、当該根抵当権設定は無効で、かつ、普通抵当権としての効力も有しないと判断したものがあるからである。
かかる裁判例は、事例判断であり一般化できるものではないものの、かかるリスクを回避するため、特定の債権を被担保債権とする根抵当権は設定しないのが実務である。

但し、被担保債権が特定しているか、不特定かは事実認定の問題に行き着く場合も多く、一時点を切り取ると、一見して特定の債権を担保するために設定するように見えても、銀行と事業会社との間の融資取引のように、将来において継続した取引が見込まれることが十分想定されるような場合には、それらの将来の取引に基づく債権も被担保債権とする意思があるとして、被担保債権は不特定であると整理するケースはしばしばある。例えば、2022年4月1日に行われる融資の債権を担保するために、根抵当権を設定した場合、その時点だけを切り出せば、特定の債権を担保設定しているように見えるが、2023年4月1日も融資が行われることがあり得るのであり、その融資の債権を含める(なお、被担保債権の範囲は、「2022年4月1日付金銭消費貸借」ではなく、「甲・乙間の銀行取引」と定め、取引していることが前提)のであれば、不特定の債権を担保している評価できるのである。

第2 「特定」、「不特定」の判断基準

ある債権を担保とするために普通抵当権と根抵当権のいずれを設定すべきかは、被担保債権が「特定」、「不特定」かにより決める。では、どのような基準で「特定」、「不特定」を判断すべきか。この点に関して、民法は根抵当権について「一定の範囲に属する不特定の債権を極度額の限度において担保するためにも設定することができる」(第398条の2第1項)とのみ規定し、「不特定の債権」がどのように認定されるのかについては、書いていない。

我妻先生は、「不特定の債権」の意味について、「現実にまたは条件附に発生してないというものではなく、担保される債権として特定していない、ということである。いいかえれば、抵当権がその債権を担保することを目的としてこれに附従し、その債権が消滅すれば抵当権も消滅するというものではなく、その債権が消滅すれば、標準に適するほかの債権が担保されるという意味で不特定なのである。」と述べる(我妻先生の担保物権法(民法講義Ⅲ)の第724講)。

そして、鈴木禄禰先生は、この点を端的に「根抵当権の理論的かつ基本的な特徴は、その被担保債権が入替え可能性を持つ点にある。」と表現する。

つまり、「特定」か「不特定」かは、債権の入替り可能性の有無(は抵当権消滅の附従性の有無と言われることもある)で判断すべきことになる。

なお、余談ではあるが、日本の民法のベースとなっているドイツ民法の根抵当権の立案時において、根抵当権の本質的特徴をどのような点に求めるかについて議論があり、「根抵当権は、現在及び将来の多数の債務でその合計額の増減変動すべきものを担保する担保物権とし、その約定の限度額を限度として優先弁済を受けることができるものとする」との考え方が判例・実務上承認されたという経緯がある。一つのメルクマールとして、「現在及び将来の多数の債務でその合計額の増減変動」があるかという観点を取り入れても良いかもしれない。

第3 極度貸付、限度貸付または分割貸付による債権を担保する場合の取り扱い

では、極度貸付、限度貸付または分割貸付による債権を担保するために、根抵当権と普通抵当権のいずれを設定すべきか。
なお、極度貸付はいわゆるリボルビング型のコミットメントライン、限度貸付は非リボルビング型のコミットメントライン、分割貸付は一つの融資契約で複数回実行されることが予め決定しているタームローンを意味することを前提としている。

仮に各貸付に基づく3000万円の債務について(根)抵当権を設定した際に、1000万円の弁済を受けたときに、かかる1000万円部分の(根)抵当権は消滅したと考えるべきかがを問題にする。極度貸付の場合、弁済部分について、融資枠が復活するので、かかる1000万円部分の抵当権を消滅したものと考えるべきではない。他方で、限度貸付あるいは分割貸付の場合、弁済部分について融資枠が復活することはないので、1000万円部分については消滅したものと考えるべき(1000万円部分について抵当権を存続させる必要がないこと)となる。

すなわち、極度貸付の場合には、債権の入替り可能性がある、あるいは消滅の附従性がないため、被担保債権は不特定といえるのに対して、限度貸付及び分割貸付の場合には債権の入替り可能性がない、あるいは消滅の附従性があるため、被担保債権は特定しているといえることになる。

したがって、極度貸付による債権を担保するためには根抵当権を、限度貸付または分割貸付による債権を担保するために、普通抵当権を設定すべきことになる(なお、かかる結論については学説上、争いがないようである。)。

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