さて、民法改正の施行日(2020年4月1日)が近づいてきている。まだ、本記事執筆時点ではあと1年以上もあるけれども、各会社さんの法務部から契約書の改正対応の依頼を受ける。
そんな中、改正対応で、旧民法と新民法どちらが適用されるか、迷ったケースがあったので紹介したい。
第1 問題となったケース
迷ったケースは具体的に以下のとおりである。
①既に締結済みの契約について、2020年4月1日に契約更新(期間満了時に双方に異議がなければ自動更新される類のもの)がなされた場合、契約更新以降、旧民法と新民法のいずれが適用されるか。
②基本契約が締結されていて、具体的な取引毎に個別契約が締結される基本・個別方式が採られている契約につき、2020年3月31日以前に基本契約が締結されているものの、2020年4月1日以降に個別契約が締結された場合、具体的な取引に旧民法と新民法のいずれが適用されるか。
③2020年3月31日以前に予約契約が締結されているものの、2020年4月1日以降に予約完結権が行使され、本契約が締結された場合、旧民法と新民法のいずれが適用されるか。
上記のうち、①が新民法適用とされるならば、②・③も新民法が適用されると解釈され易いと思われる。
なので、まずは①のケースを検討したい。
第2 民法の一部を改正する法律の改正附則(経過措置)の整理
法律が改正される場合、通常は、附則でその適用関係(経過措置)が明らかにされる場合が多い。今回の民法改正でも、附則において、適用関係が整理されており、新民法の施行日前に締結された契約と旧民法・新民法の適用関係については、改正民法施行日前になされた法律行為・締結された契約については、旧民法が適用されることが原則である旨、規定されている。そして、例外的に新民法を適用すべき場合や事の性質上、現時点から新民法を適用すべきような場合には、その旨の例外的規定が置かれている。
第3 更新契約の場合
1 法文の形式的解釈
さて、契約の更新がなされた場合は旧民法・新民法の適用関係はどうなるのか。上記原則から言えば、契約の更新がなされたとしても、契約の締結自体が2020年3月31日以前ならば、旧民法が適用されそうである。
この点に関して、改正附則で、契約が更新された場合に関する取り扱いを定めた規定が一つだけ存在する。改正附則の第34条2項である。説明の観点から、34条1項とあわせて記載すると、以下のとおりの内容となっている。
1項 施行日前に贈与、売買、消費貸借(旧法第589条に規定する消費貸借の予約を含む。)、使用貸借、賃貸借、雇用、請負、委任、寄託又は組合の各契約が締結された場合におけるこれらの契約及びこれらの契約に付随する買戻しその他の特約については、なお従前の例による。
2項 前項の規定にかかわらず、新法第604条第2項の規定【注:賃貸借契約期間の最大を20年から50年に伸ばした規定】は、施行日前に賃貸借契約が締結された場合において施行日以後にその契約の更新に係る合意がされるときにも適用する。
かかる附則を素直に読むと、「賃貸借契約が締結された場合において施行日以後にその契約の更新に係る合意がされるとき」すなわち、賃貸借契約が2020年4月1日以降に更新された場合には、新民法604条2項に限り、新民法が適用されると読める。
逆から言えば、「前項の規定にかかわらず」との部分からすると、新法604条2項以外の規定に関しては、「贈与、売買、消費貸借(旧法第589条に規定する消費貸借の予約を含む。)、使用貸借、賃貸借、雇用、請負、委任、寄託又は組合の各契約」いずれも、2020年4月1日以降に更新がなされたとしても、旧民法が適用されると読める。
2 立法担当者の解釈
しかしながら、この点に関して、筒井健夫・村松秀樹編著「一問一答 民法(債権関係)改正」(商事法務・2018年)(以下「一問一答」)は、「(Q205)新法の施行日前に締結された契約【注:一問一答上、ここでの「契約」の種類は、特に限定されていない。】について、新法の施行日以後に契約の更新がされた場合には、新法が適用されるのか」という問いを設定して、以下のように解説している(383~384頁)。
(1) 契約の更新には、①当事者間の合意によるものと、②法律の規定に基づくものとがある。
(2) ①当事者間の合意によるものは、更新合意時に新民法が適用されることへの期待があるといえるので、更新後の契約には新民法が適用される(期間の満了前に両当事者のいずれかが異議を述べない限り、自動的に更新される旨の条項がある場合における更新も、不作為による更新の合意があるものとしてこれに該当するものとされている。)。
(3) ②法律の規定に基づくものについては、さらに、(a)契約更新についての当事者の黙示の合意(黙示的な新民法が適用されることへの期待)を根拠とするもの(ex.民法619条1項)と、(b)当事者の意思に基づかない(更新拒絶を行わない)もの(ex.借地借家法26条)に分かれ、前者は新民法適用、後者は旧民法適用となる。
要は、原則として、2020年4月1日以降に契約の更新があった場合には、更新時点において当事者に新民法適用の期待があるので、新民法が適用されるが、更新拒絶をしなかった場合の法定更新についてはかかる期待はないので、旧民法が適用されるということだ。
(正味、上記(3)の②(a)と(b)とで、その評価に大きく違いがでる理由が分からないのだが・・・)
各見解を整理すると、以下のとおりとなる。
【法文】 原則:契約を更新しても、旧民法適用。 例外:新民法604条2項に限り、更新したら、新民法適用。 |
【立法担当者見解】 原則:契約を更新したら、新民法適用。 例外:新民法604条2項に関する改正附則34条2項はあくまで確認規定である。更新された場合で旧民法が適用されるのは、法定更新のときのみ(上記(3)の②の場合のみ)。 |
上記立法担当者の見解が法文とずれているのではないかという点に関して、法務省に匿名照会したが(同じ照会が結構重なっていたようで)、上記立法担当者見解は変わらないということであった。
3 実務での取り扱い
一問一答の著者は、今回の民法改正に携わった省立案担当者である。そのため、一問一答のはしがきに、「本書は、編著者らが個人の立場で執筆したものであり、意見にわたる部分は編著者らの個人的見解にとどまる」と記載されてはいるものの、実務的に彼らの見解に依拠しないわけにはいかない。だって、当該法律を作った人達が言っているわけなので。
なので、契約の更新がなされた場合、旧民法・新民法の適用関係は
原則:契約を更新したら、新民法適用
例外:法定更新のときのみ、旧民法適用
という整理を前提とする必要がある。
そのため、2020年4月1日以降も、更新により生かす契約については、民法改正対応が原則として必要となってくるので留意されたい。
第4 基本・個別契約の建付、予約契約・本契約の建付が採用されている場合の適用関係
第1で述べた残り2つのケースである
②基本契約が締結されていて、具体的な取引毎に個別契約が締結される基本・個別方式が採られている契約につき、2020年3月31日以前に基本契約が締結されているものの、2020年4月1日以降に個別契約が締結された場合、具体的な取引に旧民法と新民法のいずれが適用されるか。
③2020年3月31日以前に予約契約が締結されているものの、2020年4月1日以降に予約完結権が行使され、本契約が締結された場合、旧民法と新民法のいずれが適用されるか。
の場合、第3で述べた立法担当官の黙示の場合も含め、「新民法が適用されることへの期待」で適用を分けるのであれば、②個別契約を締結した時点、③本契約が締結された時点で、「新民法が適用されることへの期待」が認められるであろうから、新民法が適用されると考えるのが自然であろう。
そのため、②2020年4月1日以降に個別契約を締結する場合の2020年3月31日以前に締結された基本契約、②2020年4月1日以降に予約完結権が行使される場合の2020年3月31日以前に締結された予約契約についても、民法改正対応が必要となってくると思われることに留意されたい。
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