(弁護士が検証)【貸金業法①】貸金業の登録が必要となる場合について~「業として」、社内貸付・役員貸付など~

取引やプロジェクトのお手伝いをしていると、貸金業法が意外に障害となるケースが多い。

また、個人間のお金の貸し借りでも、実務貸金業法の問題を孕む場合が結構あったりする。

ということで、何回かに分けて、貸金業法に関連してよく問題となる論点と、私なりの整理を記事にしたい。

第1 そもそも貸金業とは

貸金業法は、「貸金業」を、「金銭の貸付け又は金銭の貸借の媒介(手形の割引、売渡担保その他これらに類する方法によつてする金銭の交付又は当該方法によつてする金銭の授受の媒介を含む。以下これらを総称して単に「貸付け」という。)で業として行うものをいう。」と定義している(同法2条1項)。
そして、貸金業を行おうとする者は、登録を受けなければならないとされている(貸金業法3条1項)。

つまりは、法人であろうが、個人であろうが、①お金を貸すこと、あるいは、②お金の貸し借りの斡旋を「業として」行う場合には、原則として、貸金業のライセンスが必要となるのである。
ちなみによく聞かれるが、貸付債権の譲渡の媒介(アレンジ)には貸金業法の登録は必要とされていない。

第2 「業として」って?

貸金業法に限らず、金融商品取引法でろうが、サービサー法であろうが、「業として」の該当性の判断は、明確な基準はなく、いつも頭を悩まさせられる

古い文献ではあるが、財団法人 大蔵財務協会編の「貸金業法のすべて」では、以下のとおり説明されている(緑字部分)。

「業として行う」とは、反復継続して社会通念上、事業の遂行とみることができる程度のものである場合を指すものと解される。

判例では、反復継続の意思をもって金銭の貸付け又は金銭貸借の媒介の行為をすれば足り、必らずしも報酬利益を得る意思や、それを得たことは要しないし、貸付けの相手方が不特定多数の者であることを要しないとされている(昭和29.2.24最高裁大法廷、昭30.7.22最高裁第二小法廷)。

よって、反復的継続的かどうかの判定は具体的事実に即して行われることとなる。実際にまだ金銭の貸付け又はは金銭の貸借の媒介を行っていない場合でも、金銭の貸付け又は貸借の媒介についての看板を掲げ常時営業している旨を表示している者は、「継続して」行為をしているものと解される。

次に、その反復的継続的行為が社会通念上事業の遂行とみられる程度のものであるかどうかは、その行為の主体、行為の目的等に即して具体的に判断される必要がある。例えば、職場や地域等における小規模な親睦団体が、付随的に相互扶助の観点からその構成員に対して貸付けを行う場合は、一般的には業として行っているとは認めがたいものと解することができよう。

業としての判定に当たって、営利目的の有無は本法においては問わない

うーん、やはりよく分からない。ただ、上記判例を前提とする限り、「業として」に該当するための要件のハードルは相当低い。

そのため、実務的には、相手方が単数か複数かを問わず、2回以上貸付を実行する場合(この2回以上の判断も実は難しい。一つの契約で2回以上貸し付けを行うケースもこれに該当すると整理すべきのなのか、否か)には、「貸金業」に該当するとの整理を前提に取引・プロジェクトを組んでいるものと思われる。

個人や事業会社が複数回、他の者に貸付を行う場合には、実は貸金業法違反が問題となり得る点については留意して欲しい

登録なく、貸金業法を営んだ場合、「十年以下の懲役若しくは三千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」とされている(貸金業法47条2号、11条1項)。

*実際にお金の貸し借りで紛争が生じない限りは、金融庁や警察に当該事実が露見し、逮捕されることは想定し難く、上記は理論的な話である。

なお、お金を貸した法人・人が貸金業法違反となった場合でも、それだけでは当該お金の貸し借りに関する契約が私法上、無効になるとは解されていない(貸金業の登録していない人からお金借りても、返さないといけない!)。したがって、お金を返したくないから、お金の貸し手を告発することは意味がない。

第3 「貸金業」に該当しない場合

上記では、①お金を貸すこと、あるいは、②お金の貸し借りの斡旋を「業として」行う場合には、原則として、貸金業のライセンスが必要となると書いた。その意図は、実は、例外的に貸金業に該当しないことが法律上、明記されているものがある。それは、貸金業法2条1項但書に記載されている。

① 国又は地方公共団体が行うもの
② 貸付けを業として行うにつき他の法律に特別の規定のある者が行うもの
③ 物品の売買、運送、保管又は売買の媒介を業とする者がその取引に付随して行うもの
④ 事業者がその従業者に対して行うもの
⑤ 前各号に掲げるもののほか、資金需要者等の利益を損なうおそれがないと認められる貸付けを行う者で政令で定めるものが行うもの

である。

よく会社の福利更生の一環で行われている社内貸付(従業員貸付)は、上記のうち「事業者がその従業者に対して行うもの」に該当し、貸金業に当たらないと法律上なっているのである。

ここで一つ論点になるのが、会社が取締役などの役員に貸し付ける役員貸付である。

取締役は、会社に属しているとは評価し得るものの、その性質上、「従業者」に該当しない。

この点、役員貸付が「事業者がその従業者に対して行うもの」に該当し、貸金業に当たらないと整理できるかという点につき、金融庁に匿名照会してみたところ、答えは、

当該役員が従業員を兼ねているような場合(役員でありながら、従業員としての地位を兼務(兼務役員などと呼ばれる)している場合)でない限り、NO(*後記追記部分もご参照)

であった。

なので、(従業員の地位を兼ねていない)役員に貸付を行う場合には、理論的に貸金業の登録が必要になり得る点につき、留意が必要である。

【2021年1月5日追記】
当ブログの問い合わせ窓口より、現在の金融庁の見解は、役員貸付は貸金業違反を構成しない(一般論としては、役員は「従業者」に該当する)となっている趣旨のコメントが寄せられた。当方においても、再度リサーチを行ったところ、現時点においては、役員貸付は貸金業違反を構成しないとの考えが(金融庁を含め)一般的なようである。余談であるが、そもそも本当に弁護士かどうか分からない匿名者が書いてあるブログ記事を信用するのはどうかと思うが、実際に案件で必要となった場合には、(特に若手弁護士の方は)本ブログの記事の記載を鵜呑みしないので、自らリサーチを行って、その時点の見解を探って欲しい。ちなみに、今回コメントを寄せていただいたのは、大手事務所所属の金融業界で名を馳せた方である。正直、そのような重鎮の方にコメントをいただけたのは光栄であると共に、ブログに書いて公にするということは一般の方のみならず、先輩弁護士の方にも目を触れることになるので、ちゃんとリサーチしてから記事を作ろうと身が引き締まる思いである。

また、会社の(定年)退職者に対して、貸付を行うのにも貸金業の登録が必要という金融庁の回答(ノンアクションレター)があるため、留意が必要である(質問金融庁の回答

貸金業の登録のための手続については以下の記事をご参照。

(弁護士が検証)【貸金業法②】貸金業の登録を受けるための手続~貸金業協会への加入がおすすめ~

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