風俗でつい本番を行ってしまい、店から高額なお金(違約金・サービス料)を請求されて困っているとの相談を受けたことがある。
風俗店では、規約で本番行為を禁止していることが多いため、相談者は、①法的に多額の違約金を店あるいは女の子に払う必要があるのではないか、②強姦罪で処罰されるのではないか、といった点を心配されていることが多い。
この相談に関する私なりの整理を書いていきたいと思う。
第1 風営法及び売春防止法との関係(前提)
1 風営法
まず、前提として、いわゆる風俗店、すなわち、”性風俗店”は風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(風営法)を根拠として、運営されている。
風営法上の「風俗」の営業とは、キャバレーやバー、ゲームセンター等の営業を意味するのであって、性風俗を意味して、一般的に使用されている「風俗」の営業は、風営法上、「性風俗関連特殊営業」と定義されている(なお、以下では「風俗店」といった場合には、「性風俗店」を指して使用している。)。
「性風俗関連特殊営業」は、店舗型性風俗特殊営業、無店舗型性風俗特殊営業、映像送信型性風俗特殊営業、店舗型電話異性紹介営業及び無店舗型電話異性紹介営業をいうとされている(風営法2条5項)。
うーん、性風俗を難しくいうと、こんな難しい言葉の羅列になるのか・・・
同法上、店舗型性風俗特殊営業、無店舗型性風俗特殊営業、映像送信型性風俗特殊営業、店舗型電話異性紹介営業及び無店舗型電話異性紹介営業は、さらに細かく定義されているが、それを一般用語にかみ砕いていると、以下の赤字の業態になる(まとめるにあたり、wikipediaにお世話になりました。)。
店舗型性風俗特殊営業 – 次のいずれかに該当する営業(風営法2条6項)
- 浴場業(公衆浴場法1条1項に規定する公衆浴場を業として経営することをいう。)の施設として個室を設け、当該個室において異性の客に接触する役務を提供する営業 –ソープランド
- 個室を設け、当該個室において異性の客の性的好奇心に応じてその客に接触する役務を提供する営業(前号に該当する営業を除く。)- 店舗型ファッションヘルス
- 専ら、性的好奇心をそそるため衣服を脱いだ人の姿態を見せる興行その他の善良の風俗又は少年の健全な育成に与える影響が著しい興行の用に供する興行場(興行場法1条1項に規定するものをいう。)として政令で定めるものを経営する営業 – 個室ビデオ、ストリップ劇場など
- 専ら異性を同伴する客の宿泊(休憩を含む。以下この条において同じ。)の用に供する政令で定める施設(政令で定める構造又は設備を有する個室を設けるものに限る。)を設け、当該施設を当該宿泊に利用させる営業 – ラブホテル、レンタルルーム、モーテルなど
- 店舗を設けて、専ら、性的好奇心をそそる写真などを販売・貸し付ける営業 – アダルトグッズショップ
- 前各号に掲げるもののほか、
- 店舗を設けて営む性風俗に関する営業で、善良の風俗、清浄な風俗環境又は少年の健全な育成に与える影響が著しい営業として、専ら、面識のない異性との一時の性的好奇心を満たすための交際を希望する者に対し、当該店舗内においてその者が異性の姿態若しくはその画像を見てした面会の申込みを当該異性に取り次ぐこと又は当該店舗内に設けた個室若しくはこれに類する施設において異性と面会する機会を提供することにより異性を紹介する営業 – 出会い喫茶
無店舗型性風俗特殊営業 – 次のいずれかに該当する営業(風営法2条7項)
- 人の住居又は人の宿泊の用に供する施設において異性の客の性的好奇心に応じてその客に接触する役務を提供する営業で、当該役務を行う者を、その客の依頼を受けて派遣することにより営むもの – デリバリーヘルス(派遣型ファッションヘルス)
- 電話その他の国家公安委員会規則で定める方法による客の依頼を受けて、専ら、前項5号の政令で定める物品を販売し、又は貸し付ける営業で、当該物品を配達し、又は配達させることにより営むもの – アダルトグッズの通信販売
映像送信型風俗特殊営業(風営法2条8項)
専ら、性的好奇心をそそるため性的な行為を表す場面又は衣服を脱いだ人の姿態の映像を見せる営業で、電気通信設備を用いてその客に当該映像を伝達すること(放送又は有線放送に該当するものを除く。)により営むもの – アダルトサイト
店舗型電話異性紹介営業(風営法2条9項)
店舗を設けて、専ら、面識のない異性との一時の性的好奇心を満たすための交際(会話を含む。次項において同じ。)を希望する者に対し、会話(伝言のやり取りを含むものとし、音声によるものに限る。以下同じ。)の機会を提供することにより異性を紹介する営業で、その一方の者からの電話による会話の申込みを電気通信設備を用いて当該店舗内に立ち入らせた他の一方の者に取り次ぐことによつて営むもの(その一方の者が当該営業に従事する者である場合におけるものを含む) – テレフォンクラブ(入店型)
無店舗型電話異性紹介営業(風営法2条10項)
専ら、面識のない異性との一時の性的好奇心を満たすための交際を希望する者に対し、会話の機会を提供することにより異性を紹介する営業で、その一方の者からの電話による会話の申込みを電気通信設備を用いて他の一方の者に取り次ぐことによつて営むもの(その一方の者が当該営業に従事する者である場合におけるものを含むものとし、前項に該当するものを除く。) – ツーショットダイヤル、携帯電話を利用したテレフォンクラブなど
さて、上記のとおり、風俗店は、風営法の根拠として、運営されており、同法の許可を受けて、営業されている。
ここで、ポイントなのが、上記各定義を見ていただければ、分かるとおり、風営法は「異性の客に接触する役務」の提供を容認しているものの、本番行為は容認していない(「客に接触する」に「本番行為」は含まないものと解釈されている。)。
2 売春防止法
本番行為を取り締まっている法律は売春防止法である。
売春防止法は、「売春」を対償を受け、又は受ける約束で、不特定の相手方と性交すること(同法2条)と定義し、何人も、売春をし、又はその相手方となってはならないとする(同法3条)。
風俗営業の一環であろうが、なかろうが、本番行為は対価関係がある限り、この「売春」に該当する。
したがって、風俗店で本番行為をしてしまった、男女は、「売春」したことになる(おそらく本番行為について、追加料金がとられなかったとしても、基本料金を払っていれば、「対賞」は認められるものと思われる。)。
そして、「売春」は売春防止法3条に反して違法ということになる。
もっとも、売春防止法3条違反には、罰則規定がない。
よって、風俗店で本番行為を行った男女は、売春防止法上、違法であるものの、罰則を科されるものではない。
これに対して、「人に売春をさせることを内容とする契約をした者」、「情を知つて、売春を行う場所を提供した者」、「売春を行う場所を提供することを業とした者」及び「人を自己の占有し、若しくは管理する場所又は自己の指定する場所に居住させ、これに売春をさせることを業とした者」には、罰則が課される(売春防止法10条乃至12条)。
かかる罰則を回避するため、店側は、本番行為の禁止を明記し、「売春」を促していないですよ、とアピールするのである。
当然ながら、風営法の許可を得て、営業している風俗店も売春防止法に反する行為は許容されていないのである。
なお、ソープについては、公然の秘密として、本番行為が行われているが、この点については以下の第4項をご参照。
第2 違約金を支払う必要があるか?
1 店との関係
風俗を利用する場合、女の子個人とではなく、店との契約が成立していると考えられる。そして、本番行為をしてはいけないという義務が契約内容となっているのであるから、本番行為をした場合、利用者の契約違反が成立するものと考えられる。
難しいのは、店側の被用者である女の子が本番行為に同意していた場合であるが、通常、本番行為のみならず、本番行為”の勧誘”も禁止されているはずなので、男側から、本番行為を勧誘した場合には、仮に女の子が本番行為に同意していたとしても、契約違反が成立するのではないかと思う。
なお、ある弁護士が執筆された文献や、風俗問題を専門としている法律事務所のホームページの説明には、店が利用者と女の子の間に立つ根拠がないため、店には利用者に金員を請求する法的根拠は一切無いから、店にお金を払う必要がないと記載しているが、上記のとおり、風俗の利用契約は店との間で成立しているだろうし、本番行為をしてはならないという義務が、公序良俗に反して無効になるということもないのであるから(むしろこの義務は公序良俗を適いさえする気がする。)、この見解は誤っているんじゃないかと思う。
もちろん、利用客に多額の慰謝料を請求するために店と女の子が共謀しているような場合は別だろうが。
ちなみに、実際に店にいくら払うかという問題であるが、店の規約に違約金金額が記載されていれば、法外な金額でなければその金額になろうだそうし、そうでなければ、実損相当額ということになるのではないだろうか(女の子が本番行為を行ったことにより、店に損害が生じることはあまり想定し難いかもしれない)。
2 女の子との関係
当事者である女の子と利用者の間で本番行為をすることについて合意がある(女の子から金員を求められているようなケースではこの合意の立証が困難な場合も多いが・・・)ときには、上記のとおり、売春防止法上の違法性はあるものの、慰謝料その他の損害賠償義務は生じないため、金員を支払う必要はない。
他方で、女の子との間で合意がないような場合には、慰謝料や損害(妊娠検査や中絶費用など)の賠償義務を負担することになるものと思われる。
この場合、以下の第3項に記載するように、強姦罪に該当するので、刑事事件に発展してしまった場合など、ケースによっては、示談を成立させる必要が生じ、数百万を支払う必要がでてくることも有り得る。
第3 強姦罪(刑法177条)は成立するのか?
風俗店だからといって、無理矢理本番行為をすることは当然に許容されるはずもなく、暴力(いわゆる殴る・蹴るの暴力ではなく、物理的な腕力の行使の意味)を用いて、無理矢理本番行為をした場合には、強姦罪が成立することになる。
後になって、「被害届を出す」と脅してくる実例も多いので、(密室の出来事なので、妙案は浮かばないが・・・)可能な限り、合意があったことの証拠は確保しておくことが望ましい。
第4 ソープランドは適法?違法?摘発されない店がある理由
さて、余談であるはあるが、ソープランドでは、本番が行われているにもかかわらず、摘発されていない店も多い。
前述のとおり、売春防止法上、売春をする場所を提供している者には罰則があり、ソープランドを経営している者は、これに該当しそうなのに。
この点に関する理論的な説明としては、店はあくまで入浴場を提供しているのであって、売春の場所を提供しているものではない、入浴場を使って、勝手に男女が自由恋愛の下、本番行為を行っているのである、というものが用いられている。
極めて形式的で、建前的な説明だと思う。。。
摘発されていないソープが多い実質的な理由としては、①パチンコと同様、産業として成長しすぎて、too big to fail(大きすぎて潰せない)、②ソープがあることによって、性犯罪が減少している(ソープがなかったら、強姦が増加する)、などの説明がなされることもある。
これらも本当かなぁ・・・という気がする。
いずれにしても、ソープでの本番行為が適法であるという説得な理由付けは見当たらない。
なので、警察としても、摘発しようと思えば、いつでも摘発できる状態にあり、現に摘発された店もそれなりに存在する。
なお、この場合、売春防止法で摘発された場合、刑事事件になるわけだが、刑事事件において、裁判所は、上記自由恋愛の理論について、「確定的な故意はなくても、少なくとも未必的な故意(本番行為やるかも・・・程度の認識)はあったでしょ」という理由で、自由恋愛の理論を理由に売春防止法違反は成立しないとはいえない、という至極まっとうな判断をしている。
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